大泣きに泣いた後、セイは夢をみた。
「神谷さん、寝ちゃいました?」
ふいに声がして、目を上げたそこには「沖田先生」が。
窓の格子に手をかけて、満月の光が目の中に挿している。
「先っ!?ここ2階…っ」
「下から声はかけたんですよ?」
「夜だから静かにね」言う彼は裸足だ。樺の木をつたって上がってきたのか。
セイは温かな笑い顔を恋しく見つめた。あの秋物の着物は、いつも彼が着ていた物。
高く結われた癖のある髪が夜風に吹かれているのが、懐かしく愛しい。
「今日はごめんなさい。どうしても行かれなくなってしまって」
申し訳なさそうな総司の声に、セイの胸に激しい罪悪感が募った。
本当は大いに拗ねていた。せっかくの約束を反故にされてしまったのだから。
けれど本人を目の前に泣き言を言えないのは目に見えていて。
癇癪をぶつけてしまったのは、今日、何より大事だったはずのあの箱。
「これ、私のですよね?」
総司の手がまさにその箱に触れようとするので、セイは小さな悲鳴を上げた。
「だ、ダメですっ。それ、もう食べられないから…っ」
「どうしてですか?」
「中身…ぐちゃぐちゃです。きっと」
がんばって、がんばって、この日のために練習して、作ったのに。
総司の断りを聞いたとたん、張り切っていた自分がひどく惨めに思えてしまった。
今日じゃなくても、明日笑って渡せばよかったのに。
甘いものが好きな彼のために、それは簡単に出来た判断だったはずだ。
わがままも、意地悪も、この人の前では見せたくないのに。
「ごめんなさい、沖田先生」
「先生?」ふ、と間近で総司が笑う気配がした。息の音が風のように耳元に触れる。
「神谷さん、寝ぼけてますね」
「え?」気が付けばセイは目を閉じていた。
いや、思えば一度も目を開いた記憶が無い。
泣いた後のまぶたは重く、どうしても眠くて開けられなかったから。
涙が乾いてひりひりとした頬を、暖かな手が慈しむように撫でている。
「…ケーキ、美味しいですよ?ありがとう」
前髪を掻き上げられた感触。そして、

泣き寝入りした次の朝はひどい顔だった。
でも窓の外には樺の木があり、部屋から潰れかけのケーキ箱は消えていた。
空は秋晴れ。月は少し欠けた白いお皿のよう。
額は、自分ではわからないけれど、
舐めたら甘い味がするだろう。

どうやら笑って学校に行けそうだった。
















おきたせんぱーい、不法侵入でーす。

・1000字以内→945文字
・体言止め →8、14行目
・会話→有り
・繰り返し表現→20行目
・倒置法→12行目
・比喩→26行目、37行目

…と、出来てるはず。
HANAさん、楽しかったです!ありがとうございました!
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